初めて食べる彼女の雑煮(福岡バージョン)
二人でスーパーへと入る。
3日ともなると食材を買い求めるお客たちで店内は混雑していた。
「えっと・・何作ってくれるの?」
衛「約束どおり雑煮だけど?」
(雑煮だけかよ・・。)
そうと思いつつ、野菜コーナーでかつお菜をカゴに投入。
かつお菜は高菜の仲間で、福岡の雑煮には欠かせないものらしい。
衛「YUくんちって大根ある?」
「大根?無いけど?」
衛「じゃあいれとくね。」
雑煮に大根入れるの?
鰤(ぶり)と鶏肉もイン。これはきっと雑煮のついでに「煮物的な物」を作ってくれるに違いない。
雑煮と煮物・・味のジャンルがちょっと被っている気もするが・・。
案の定ビールなんかもカゴに入れてお会計。
「あの・・・肝心の餅は?」
衛「餅とかは実家から持ってきた。」
買い物を済ませて家に到着。衛生女の大量の荷物をなんとか部屋へと運ぶ。
「ふう・・腹減った・・。」
衛「私も・・さっそくお雑煮作っちゃおっか!」
「手伝おうか・・?」
衛「大丈夫・・一人でできる。」
少し自信のなさ気な彼女の表情が、少しだけ俺を不安にさせる。
衛「あっ・・これ実家のおせち貰ってきたんだ。良かったら食べて。」
「おお!ナイス!んじゃとりあえずビールで乾杯しよか。」
乾杯を済ませて、正月番組を見ながら一人でおせちをつまむ。
トン・・トン・・。
キッチンからはぎこちない包丁の音が響いてくる。大丈夫だろうか?
10分・・20分・・30分。
40分を過ぎる頃、俺はやっぱり不安になってキッチンを覗きに行った。
「じゅ、順調?」
キッチンでは衛生女が腕を組んで携帯を覗き込んでいる。
(もしやクックパッド・・?)
いや・・ここは下手な自己判断よりもネット上のレシピに頼ったほうが「安心・安全」である。
衛「大丈夫!大丈夫だから!気が散るから部屋に行ってて!」
鍋はシューシューと蒸気を吹き出していた。
「あっそう・・?(これ大丈夫じゃないヤツだ)」
俺は冷蔵庫からビールをもう一本取り出して、部屋へと戻った。
さらに20分ほどして、部屋のドアが開く。
衛「おまたせ☆」
「お、おう。」
彼女は味噌汁用のお椀を2つテーブルへと載せた。
出汁のいい香りが鼻をくすぐる。
衛「うまく出来てるかはわからんけど・・。」
俺はゴクリと唾を飲み込んで、お椀の中を覗き込む。
菜っ葉(カツオ菜)に丸いお餅に鰤、しいたけ、かまぼこ、鶏肉、人参と大根が所狭しと入っている。(他に里芋とかスルメイカなどが入ることも)
煮物で出てくると踏んでいた鰤や大根、そして鶏肉が雑煮の中にINしている。
これが福岡の雑煮か・・さすが食の街だけある。
餅と餅菜というシンプルを極めた名古屋の雑煮とはかなり違う。
名古屋はマジでこのレベル。
「な、なんか豪華やね。いただきます。」
俺はズズッと汁を飲み込んだ。
「お・・美味い!」
少し濃い目の味付け(煮詰めたせい?)だったが、予想していたよりも美味い。
鰤も鶏肉も、そして初めてのカツオ菜も美味である。
「やるやん!衛生女やるやん!」
衛「やろ?私もお雑煮くらい作れるのだよ。」
自慢気に言う彼女。今日はちょっと頼もしい。
「さて・・おかわり貰おっかな?」
衛「え?無いよ。」
「何が?」
衛「おかわり。」
「え?」
衛「え?」
「・・嘘だ。」
衛「ちょうど二人分の分量で作っちゃったし。」
「マジで?あんなに手間かけたのに?」
衛「だって余ったら勿体無いし。おせちもあるし・・。」
1時間もかけて、おかわり無しとは・・。
逆に二杯分きっちりで作るの難しいと思うんですが・・。
衛「そかそか!そんなに美味しかったのねw また明日の朝作ってあげるよw」
初めて食べる彼女の雑煮はわずか1杯でエンドロールを迎えるのだった。