きっと彼女は「高飛車女」だから・・手抜きデートは禁物。
「結局、昨日もホテルにほとんどいなかったわ・・。」
清田子と別れ、一日ぶりに狸小路のホテルへと帰って来た。
窓を開けると冷たい風が入ってくる。都会の喧騒がなんだか心地いい。俺は疲れを癒やすべく、しばしの仮眠をとることにした。
次のアポが待っているからだ。
札幌に帰れば次のアポが待ってる。
「エネルギーチャージ完了!!」
目を覚まし、だるい体を奮い立たせるため叫ぶ。さっさとシャワーを浴びて、服を着替えると、俺はふたたび札幌の街へと繰り出した。
(次から次へと・・よくもまあ)
ここまでストイックに出会いアポを、実行している男も少ないと思う。いや、こんな事にしかストイックになれない自分に呆れる。
待ち合わせは大通りのマルイ。宗教の勧誘される
さて、今日の待ち合わせ場所は、すすきのよりも近い。大通公園のデパート「丸井今井」の入り口だ。
札幌の街には慣れ親しんでいる。目的地に着くのに、googleマップなんて必要ないぜ!?
「あれ・・マルイ・・マルイってどこだっけ?」
大通りの辺りをうろつきながら、丸井今井の入り口を探している。忘れやすいってレベルじゃねえ。
外人「これ・・聖書わかりやすく書いてあるからヨンデみて!あと日曜日にここの教会でミサってるんで!」
途中で外人からキリスト教の勧誘を受ける。彼の流暢な日本語から、彼には相当な「ベテラン臭」を感じた。
ちなみに札幌で宗教の勧誘を受けるのも二度目。俺って「彷徨える子羊」感がにじみ出てるのだろうか?
「やっぱり場所がわからん!お、教えて!google先生!」
刻一刻と迫る待ち合わせの時間に焦る。やはり持つべきものは、スマホという再先端の文明機器なのだ。
GPSで宇宙と交信しながら、導かれるまま、あっさりと目的地のマルイへ到着。
俺の記憶なんかより、Googleマップのほうがよほど正確だった。
「やっぱり札幌はかわいい子が多いなあ・・。肌も白くて美味しそう・・。」
さっきから綺麗なお姉さんが目の前を通っていく。その度、俺は鼻をクンクンさせて、その残り香をご褒美にした。
(決めた!明日は風俗に行こう!)
なぜその発想なのかは自分でもわからないが、これが俺なのだ。
高飛車そうな女とご対面
ということで今日の相手の紹介をば。
名前:高美
年齢:20代後半
出会ったサイト:ワクワクメール
知り合って一か月。写メ交換はないが。ワインだとか、カジュアルフレンチ料理だとかの写メをLINEでわざわざ送りつけて来る意識高い系の女の子。
少し高飛車な性格な気がする。だから高美(たかびぃ)と呼ぼう。
「わかるよね?デートプランちゃんと用意しとけよ?」
今回のデートはそんな無言の圧力を感じる。昨日のように、ジンギスカンには連れていってはいけない気がしている。
かと言って、高い店に連れていくのもシャクである。
「だって顔面ヤバいかもしれないじゃん?」
お高くとまったて斜に構えたブスほどストレスの溜まる人間はいない。ということで、食べログで点数の高い店を予約してある。
電話コミュ障の俺に予約させるなんて罪な女だぜ。
女「・・YUTAROさんですか?」
俺は待ち合わせ場所で一人、不敵な笑みを浮かべていると、女性から声をかけられた。ナンパか?いやいや彼女はきっと高美だ。
(おお・・?おお!!)
長澤まさみ似のアヒル口。めっちゃタイプのかわいい子登場!
(・・めっちゃ可愛い。)
顔は長〇まさみに似ているような、爽やかな雰囲気のする美人だ。口角の上がったアヒル口が特徴的だ。
肩に少しだけ乗っかった艶のあるミディアムボブヘアーが、大人の落ち着きと、活発的な若さを共存させている。
(・・使っているシャンプーは何ですか?)
俺はその髪の匂いを嗅ぎたい衝動に駆られた。ベージュのコートに、ピンと伸びた背筋。
きっと自分に自信を持っている意識高い系女子である。
(来た、ビッグウェーブが来た。)
とにかく大当たりである。今のところ今回の旅で一番の容姿だ。なにより顔と髪形が、俺のストライクゾーンど真ん中を貫いている。
ヤレない?背筋を伸ばすも胃に来る
(これは・・なかなかヤラセてくれないぞ?)
俺は、そんな雰囲気を感じ取る。気を引き締めなければ。
「さて行きましょうか?」
彼女に負けないように、俺は前のめりに折れ曲がった背筋をピンと伸ばした。
無理な姿勢が、弱っている胃にジワジワと効いてくる。
高「今日はどこに連れてってくれるんですかあ?」
うん。声もいい。良い。
「ふふっ。(食べログで)人気のバルです。」
バルとは?意外と知られていない「バル」の定義
俺は、バルがなんなのかもうまく説明できない。
やっぱりカワイイ子と街を歩くだけでテンションがぶち上がる。
「えっと・・確かこの辺り・・。あっここだ。」
向かった先は、ススキノの少し手前(南四条西1)にある「たべごと屋 ござる」だ。
高「ござる・・?」
「うん。ござる。」
高「アハハ!これってバルじゃないですよね?YUさんって天然でしょ?」
「天然とはたまに言われる。・・でもバルってなんでござる?」
高「えーっと・・そもそもバルってなんだろ?」
ということで入店前に「wiki」る。
イタリアのバル(正確にはバール)
バール(bar)は軽食喫茶店を指す。食事にも重点をおいたリストランテ・バールから、コーヒー中心のカフェ・バール、 アイスクリーム中心のジェラテリア・バールなど様々なものがある。イタリアで単に「カフェ」というと、店ではなくコーヒーそのもの、一般的には「エスプレッソ」を指す。
「ふむふむ。」
スペインのバル
バル(bar)は、喫茶店と居酒屋と食堂とコンビニエンスストアが一緒になったような飲食店を指す。朝はコーヒーを、昼には食事とビール・ワインを提供し、夜はタパス、ピンチョス、アヒージョといった小皿料理と酒を提供する店が多い。飲食だけでなく、電話を借りる、店内のスロットマシンで遊ぶなど日常生活の延長線上にもあるとも言える。
日本においても、タパス、ピンチョス、アヒージョとビール、ワインを供する「スペインバル」を名乗る店があり、2005年頃からブームが起きている。ただし、日本においてはブームにあやかっただけの「なんちゃって」バルも少なくないという指摘もある。実際に「バル」が日本語として独り歩きして”baru”の表記が街で見られるが、これは既存のバー”bar”との読まれないように差別化を図っているとの指摘もある。Wikipedia「バール」より
「この説明によると、つまり・・居酒屋はバルだと?」
高「・・喫茶店もバルですね。」
「じゃあここもバルじゃん。でも結局バルって幅広すぎてどんなのかよくわかんなかったね。」
高「YUさんって不思議な人ですねw」
「・・そ、そう?」
とにかく二人でバルバル言いながら、「ござる」入店。これはバルと言ってもいいような、雰囲気のいいお店だ。
「たべごとやござる」トマトの茶碗蒸しが印象的。
「よし!何飲む?ビールかな?」
高「赤ワインで!」
な、なぬ?初っ端からワインを飲むとは・・なかなかに意識が高い。
高「わあ!美味しそうな料理がたくさんある☆」
「この時期は、さんまの刺し身かな?」
高「じゃがいものゴルゴンゾーラで。」
「ほっけの干物かな?」
高「鴨ロースのあぶり焼き食べたい☆」
「よし!ごぼうチップでどうだ?」
高「この牛肉にウニ乗せたのなまら美味しそう!」
俺と食べ物の趣味が全く合わねえ・・!
でもカワイイから許しちゃう。
カワイイは正義だ。力だ。ブランドだ。お通しでトマトの茶碗蒸しが出てくる。
トマトが和食に入っているだけで、無理に背伸びした料理に感じてしまう昭和のオッサン。
(くっ・・創作系かよ・・。普通の茶碗蒸しがいいわ。どれどれ?)
俺&高「なにコレ!美味しい!」
俺、キミと初めて一つになれた気がしたよ。
うめえ・・うめえよ。「ござる」さん。
(札幌ってこんなにお店のクオリティ高かったっけ。)
バル騒動の時はどうなるかと思ったが、高美も満足そうにしている。
B型はいじると不機嫌になる。
「そう言えば高美ちゃんってさ、血液型は何型?」
高「え・・?B型ですけど。」
「あれやん。自己中やん。」
高「いやいやマイペースって言ってくださいよ。」
不機嫌そうに彼女は返す。きっと血液型トークは嫌いなんだろう。
「でも俺・・B型に惹かれるのよ。前の彼女もB型で、その前もB型だったの。」
高「へええ・・そうなんですね~。」
失言を一生懸命取り繕うも、彼女からはそっけない返事が返ってきた。
「いや・・。もうちょっと話し膨らませたいなあ~。」
まあカワイイからいいけど。俺頑張る。
高「前の彼女の血液型と同じとか言われても、ピンと来ないっていうか・・会ったことないし。」
「ひねくれちゃって!でもそんなとこがB型の良さだよね!(適当)」
「別れたら相性悪い。」現実的な会話
高「でも最終的に前の彼女と別れちゃたんですよね?本当は相性悪いんじゃないですか?w」
「そりゃ結婚しなかったら、いつかは別れるやん?」
高「・・・まあそうだけど。」
なんだか思ったよりも現実的な会話の攻防。
あれか?俺に全然興味ないってか?
セクハラ紙一重、かわいい子だと空回る
「そういえば高美ちゃんて結婚願望はあるの?」
高「ふふっ。結婚願望めっちゃあるんですよ~。早く子供がほしいの。20代のうちに。」
「・・作る?」
高「いやいや絶対作らないw」
「そんなに赤ワイン飲むと唇が、赤くなっちゃうよ?だからチューしていい?」
高「ダメに決まってるw」
相手がタイプすぎて、いつになく積極的な俺。積極性をはき違えてセクハラだ。これは一歩間違えると「キレて帰るパターン」だ。
かわいい子を前にすると空回ってしまう。
「もう帰る」に食い下がる
「よし!もう1軒行こっか?」
高「うーん・・明日仕事だし帰ろうかな?」
カワイイからいいけど・・。いやそこは良くない!
「そんな事言わんと、もう1軒付き合ってよ~まだ午後の9時やで?」
これを逃したら二度と会えない。こんな美人さんはなかなか現れないのだ。
彼女の足にしがみついて拝み倒してでも、引き止めなければ。
もう少し一緒にいたい。健康トークで二件目誘致
高「私いつも11時には寝てるし・・。睡眠のゴールデンタイムに寝ないと。」
・・これは意識高い。
「あー!睡眠のゴールデンタイムって22時から2時に寝ることだって勘違いしてるね?」
ここは意識高い返しだ。
高「え・・そうなの?てっきりそうだと思ってた。」
「じゃあ詳しくは、もう1軒行ってから話そう。きっと人生変わるぜ?」
マルチの勧誘みたいな・・勧誘である。
高「笑・・仕方ないなあ・・。」
ということでもう1軒誘い出すことに成功する。彼女は意外と押しに弱いかもしれない。
とりあえず近くにあるワインバーみたいな店に誘致。思わぬ所にいい店があった。
高「・・で。睡眠のゴールデンタイムっていつなんです?」
「えっとね。眠り始めてからの90分間がゴールデンタイムとか言うらしいよ。だから寝る時間は関係ないんだって。」
高「えー!嘘だー!」
「この最初の90分間は大事だから、寝る前にお酒飲んだり、スマホとか見て睡眠の質が悪くなると良くないとかなんとか・・。」
高美よ・・間違ってたらすまん。
高「なんか信ぴょう性が無いなあ・・。やっぱり・・帰りますw」
「待てい!あんまりキチっとした生活も・・逆にストレス溜まるやん?B型にはストレスは特によくない。」
高「うーん。じゃあ22時に寝るとか関係ないんですね。」
「できるだけいつも同じ時間に寝て、規則正しい生活を送ろうってことらしいよ。」
高「じゃあ帰って寝たほうがいいってこと?」
「ぐぬぬ。」
彼女の「帰ります」連呼によって、俺は少し冷静さを取り戻した。
さっきまでのセクハラトークは捨て、できるだけ紳士な話しに切り替える。
これは下ネタ大好きな僕としては、高難易度だ。
もう一回会いたい。どうする?
気が付けば、もう午後11時だ。最初のアポとしてのノルマは達成したと言えるだろう。しかし、これ以上彼女を引き留めるには、スキルが足らない。
(なんとかもう一回会うことはできないものだろうか?)
アルコールの影響も無視して、俺の脳は高速回転していた。彼女に酒を飲ませて少しでも時間を稼ぐ。あくびの回数が激増中である。
臨機応変?紅葉狩りと温泉に誘おう!
「へえ・・旅行が好きなんだね~。」
高「でも最近服とか買っちゃって、全然行けてないの。」
「そうなんだ~昨日ちょっとドライブして来たけど、今めっちゃ紅葉キレイだよ。洞爺湖(とうやこ)のほうとかヤバかった。」
高「いいな~紅葉狩り行きたい。」
「なんかすっごいキレイで大きな温泉旅館が新しく出来てた。」
高「えー。温泉いいなあ・・。どんな旅館?」
もちろんそんな旅館など知らない。俺はここに光明を見出した。スマホを取り出し、高速でじゃらんを開く。
新しくて、良さそうな旅館を適当に選ぶと、高美にその旅館の画像を見せる。
高「うわー!凄良いココ!」
「たしか立ち寄り湯も出来るよ!(知らんけど)この大浴場めっちゃ良さそうやん。」
高「行きたい行きたい。」
ふふっ・・欲にまみれた小娘が。
「行こうぜ!俺がバッチリ運転するから!」
もうひと押し。
高「そうですねえ・・行くならいつがいい?」
食いついた!
「明日か・・明後日?」
高「えええー!」
・・やっぱりこの反応になるわな。
必死で強引な誘いが上手く行くこともある。
「頼む!明日か明後日でお願いしやす!」
俺は必死かつ強引に、頼み込んだ。
たとえ高美が美人だったとしても、長期間札幌に滞在するわけにはいかない。
スケジュールを一から見直さなければならないし、金銭的にもかなり厳しくなってくる。
「有給を取り給え。風邪を引き給え。」
眼の前の美女を前にして、最低な部分が顔を出す。
B型よりもよっぽど自己中心的だ。
言ってみるもんだ。まさかOK
高「明後日なら・・休みですけど。」
「うおお!おっしゃあああ!!」
天にも上る気持ちとはこの事だ。でも考えたら普通に土曜日だった。
「行こう!行こうぜ!洞爺湖へ!二人でアヒルボートに乗ろうぜ!すいません!彼女にワインもう一杯!」
高「テンション高い・・wうん!そこまで言うなら・・行こう!楽しそうだし笑」
「きたああ!!」
興奮と喜びで、葡萄酒を含んだ唾が飛び散った。
最初のデートはお開き
「他にも楽しそうなところ調べとくから。俺に任せてくれ!」
高「期待してる☆ガッカリさせないでくださいねw」
「高飛車ああ!」
高「ウソウソ。明後日楽しみにしてます。じゃあ私そろそろ帰ります。YUさんまだここで飲んでていいですよw」
もうこれ以上、引き止めるのは難しそうだ。
ここで嫌われたら、明後日の本番が台無しだ。
「いやいや送らせてください。」
ワインバーを出て、高美を地下鉄の大通駅まで送って行く。
「じゃあ明後日の午前11時に、車で迎えに行くから。今日はホントのホントにありがとうごぜえますだ。」
高「はい。ウチの場所もLINEで送りますね。」
「うん。ほなお休み。」
高「お休みなさい。」
・・軽く会釈をして、彼女が改札の中へと消えていく。
彼女は酔っぱらっても姿勢が良いままだ。
札幌二日目終了。祝杯をあげて
さてホテルに戻ろう。
ビールを買って祝杯だ。
足取りが軽い。いやこれはもうスキップだ。
ホテルに帰り、ビールの缶を開ける。プシッという音とともに泡が溢れだした。
「おっとととと。グビッ」
今日は一日本当に楽しかった。充実感に包まれている。
余市で買ったウイスキーを箱から出して眺める。
「まだ飲んじゃいけねえ・・このウイスキーは福岡に帰ってから旅の思い出と一緒に飲もう。」
「そうだそうだ。カニの燻製があったんだ。」
独り言劇場を繰り広げながら、カニの燻製を袋から取り出す。
スモーキーな良い匂いと、カニの甘い香りが食欲をそそった。
パクリ・・。濃厚でんめえええ!
ヘラガニ(見た目はワタリガニに似ている)という小さいカニなので幾らでも行ける。
グビグビ。パクリ。グビグビ。パクリ。
俺は無心でカニの身をほじくり出して味わった。
札幌がいい街すぎて心揺れる
「ああ・・幸福。また札幌に帰って来ようかな?」
札幌と福岡に家を借りたら、どれだけ幸せな生活が送れるだろうか?
そんな怠け者の発想を抱きながら、ベッドに転がる。
明日は調整日にしている。だから予定は何もない。
(やっと・・ゆっくり眠れる。ここまでハードだったなあ・・明日は一人で札幌を楽しむか・・。)
「おっと、いけねえ。」
「明日はお部屋のお掃除しなくて良いですよ札」を入り口のドアにかけて、再びベッドへ転がった。
一瞬で瞼が重くなってくる。・・おやすみなさい。